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PISAでの日本の読解力が低下。ランキング上位シンガポールの英語教育の成功要因は?


PISAとは?

経済協力開発機構(OECD)による国際的な学習到達度調査、「PISA」の2018年の結果が昨年の12月に発表されました。2003年には、このPISAにおける日本のランキングが低いことが「PISAショック」を起こし、脱ゆとり教育政策のきっかけの一つになったとも言われています。そして今回、試験を受けたのは、脱ゆとり教育の一期生。しかし日本の読解力ランキングの低下が再び注目を集め、2度目の「PISAショック」が起きたとも報道されました。その一方で、近年はシンガポールの教育が注目を集めています。この記事では、そんなシンガポールの英語カリキュラムを分析し、PISAの評価基準と照らし合わせつつ、解説していきます。

PISA(Programme for International Student Assessment)は、世界72か国で約54万人の生徒が調査の対象となっており、日本では198校の高校1年生約6600人が2018年には参加しました。試験は主に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野に別れており、基本的な知識に加え、それを応用して考えるような記述の問題も多く出題されることが特徴です。

日本が抱える課題

2019年12月4日に発表されたPISA2018は読解力を中心に調査が行われたと言われています。そして日本の読解力の結果は15位。得点はOECD平均よりも大きく上回りましたが、順位は前年の8位からは大幅に下がってしまいました。

そんなPISA2018から、「クリティカルリーディング」という要素がリーディングの試験で重視されていることが注目を集めました。例えば、今回からは、事実と意見を見分ける力が試されるように。その中での日本のランキング降下を踏まえ、文部科学省は自分の考えを他者に伝える能力をつける学習カリキュラムに課題があるという見解を示しています。

高ランキングなシンガポール

シンガポールは中国都市部に次いで、どの分野においても2位を獲得。特にリーディングでは2015年以降、得点が上昇し続けています。このリーディング力向上には様々な要因があると考えられています。

読書量

まず、シンガポールの生徒は平均的に他の国の子供よりも読書を好むのだそうです。PISAの調査では学力の試験に加え、勉強に対する姿勢や日々の学習習慣に関する調査も行なわれています。それを通して、シンガポールの生徒は平均的に日頃から読書を好むことがわかりました。

人間関係

また、同じ調査で、シンガポールの生徒たちはクラスメイトと健全な関係性を持てていることや、教師に対する信頼度が高いことも証明されています。このような教室内の人間関係は読解力と関係があるとも言われているため、健全な人間関係が、高いリーディング力の秘訣の一つとなっているでしょう。

教育格差

さらに、シンガポール内の教育格差の少なさも高ランキングの要因の一つであるとされています。シンガポールの教育庁(MOE)によれば、国内の社会経済的地位が最下層の25%の生徒も、OECDの他の国々の平均よりも総合的な結果は良くなっています。

英語教育改革

しかし、シンガポールのリーディング力向上の最大の要因は、2010年代の英語教育の改革であると言われています。現に、シンガポールの教育庁(MOE)も、好成績の要因を小学校のカリキュラム内容にあると声明を出しています。特に、
「生徒たちは『テクストの評価や塾考』などの高次の認識過程や、単一のテキストと複数のテキストの両方に読解技術を適用する能力に長けている」と言っており、
「そのような識字能力は、多数のソースが生み出している情報過多な今のデジタル時代で、どの情報が信頼できるかを見分けるための必要性が増している」
とリーディング能力の現代における意義についても言及しています。

“the students have demonstrated strong performance in the higher-order cognitive processes of ‘Evaluating and Reflecting’, and proficiency in applying reading strategies on both single-source and multiple-source texts.”
“Such literacy skills are increasingly important in helping students discern what is credible in a digital era that is characterised by an influx of information from multiple information sources.”

シンガポール政府プレスリリース “Singapore Students Show Well-Developed Thinking and Reasoning Skills: OECD PISA 2018 Study”より引用

シンガポールの英語カリキュラム内容

では、そのシンガポールの英語カリキュラムは一体どのようなものなのでしょうか。
MOEによると、
「シンガポールの教育システムは小学校で読み書きの基盤をしっかりと築き」、
「中学校の英語カリキュラムは、その基盤をベースとして、クリティカルリーディングの技術と多様な内容と影響を持つテクストに対応する能力強化に重点を置いている」のだそう。
ここからは、シンガポールの英語教育改革後のリーディングカリキュラム(2010年版)を元に、どのような英語学習がPISAにおけるリーディング能力向上に繋がったのか、考察を深めていきます。

“our education system provides a strong literacy foundation in primary schools”
“The secondary English Language (EL) curriculum builds on that foundation and emphasises the development of critical reading skills and ability to respond to a diverse range of multimodal and dynamic texts”

シンガポール政府プレスリリース “Singapore Students Show Well-Developed Thinking and Reasoning Skills: OECD PISA 2018 Study”より引用

言語学習に力を入れている

バイリンガル国家であるシンガポールでは、生徒は皆、2ヶ国語を両立して学びます。英語の授業だけで、1,2年生は週17時間、3年生は15時間、4年生は13時間。参考までに、日本の義務教育のカリキュラムでは国語の授業時間は1,2年生で週に9時間、3,4年生で7時間、5,6年生で5時間です。この違いを見ただけでも、シンガポールの生徒のリーディング能力の高さに納得がいきます。

実践的なテクストを授業に用いている

シンガポールの授業では、教科書だけに留まらず、新聞、ネット記事、本、映画、テレビ、ラジオ、会話、インタビュー、スキットなどのテクストを使用しています。このような日常生活を題材とした学びだと、生徒の意欲や理解度が上がるはずです。加えて、PISAの試験では、異なる媒体の多数のテクストの読解が試されるため、日頃から様々な形のテクストに触れてリーディング力を磨くことが重要だとされています。

クリティカルリーディングがシラバスに含まれている

PISAで近年注目を集めている「クリティカルリーディング」という能力。テクストを批判的に分析し、ただ内容を理解するだけではなく、生活に適応したり、内容に疑問を持ったりすることを指します。シンガポールの英語カリキュラムではどのレベルでも、この「クリティカルリーディング」を行うことが促されています。そうすることで、「生徒が批判的に様々な情報とソースを評価し、多種多様な情報媒体が持つ役割を理解するようになる」とシラバスには明記されているのです。
また、テクストを批判的な視点を持って読む、という意味のこの「クリティカルリーディング」ですが、自然と身につく能力ではありません。特に、日本のように目上を尊重する文化を持つ国では、与えられたテクストが正解であると思うことが多いからです。そのような文化では、「クリティカルリーディング」をすることが明確に指示されていない限り生徒は率先して行うことは少ないのです。そのため英語カリキュラムの1分野として含まれているシンガポールでは、日常的に授業の中で「クリティカルリーディング」を行うことが可能になっているのです。

オーラルコミュニケーションに力を入れている

2010年の英語カリキュラムでは、以前よりもスピーキングにも力を入れています。Show and tell(自分の持ち物を家から持参してクラスの前で発表すること)、ディベート、スピーチ、スキット、プレゼンテーションなどを全レベルで導入しているのです。受動的に教わるだけではなく、自発的にアウトプットする内容のこういったスピーキング練習は、前述した「クリティカルリーディング」能力にもつながると考えられます。自らアウトプット内容や伝える手法について考える機会は、与えられたテクストを能動的に受け取ることも促されるからです。

クロースリーディング(Close Reading)

最後に、シンガポールの英語カリキュラムには「クロースリーディング」という分野があり、この分野の能力も「クリティカルリーディング」力と関係していると言えます。細部に注目してテクストを読むことを意味する「クロースリーディング」は例えば、テクストから得た情報を元に自分の考えを形成したり、テクストの中に出てくる考え方を整理して比較したり、テクストの取り上げている内容についてさらに調べるためにリサーチクエスチョンを立てたりすることなどがシラバスには記されています。テキストをより綿密に読み解くこれらの学習法は、「クリティカルリーディング」能力を身につける手段である、と言えます。一つのテクストを熟読し、書かれているトピックについてさらに理解を深めることで、そのテクストに対する批判的な視点も自然と生まれるからです。

これからの時代さらに必要となるリーデイング力

2015年以降リーディング力を伸ばし続けているシンガポールでは、2020年に再び英語カリキュラムが刷新されます。新しいカリキュラムでは、「クリティカルリーディング」分野にさらに力を入れ、「識別力のあるリーディング能力」を生徒に身につけさせることを促しています。現在のカリキュラムよりもさらに、現代に適応したリーディング技術を意識して、シンガポールの学校で教える英語は変容していくようです。

OECDがPISA2018でリーディング力に重点をおいた試験を実施した理由は、「21世紀で重要なスキル」であるからと言っています。特に、事実と意見を見分ける能力などの「クリティカルリーディング」は、情報過多の現代を生きる中での必要なリテラシーです。だからこそ、今後もPISAは学生のそういった重要な能力を測り、国内の教育カリキュラムを見直すきっかけとして有効な指標の一つであり続けることでしょう。



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鹿島多恵

鹿島多恵

慶應義塾大学環境情報学部所属。TOEFL iBT 119点、英検1級を持つ。3歳から9歳(2001〜2007)をアメリカ(ニューヨーク)、15歳から17歳(2013-2015)を中国(北京)で過ごし、帰国後、2016年からキャタルの教師として勤務。海外で得た豊富な経験を生かし、大学では国際問題の発信活動に取り組んでいる。

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