文科省が検討する大学入試英語への「民間試験導入」が抱える課題とは? | バイリンガルへの道

文科省が検討する大学入試英語への「民間試験導入」が抱える課題とは?

文科省が検討する大学入試英語への「民間試験導入」が抱える課題とは?

文部科学省は、5月16日に2020年度から現行の大学入試センター試験に代わる新テスト「大学入学共通テスト」(仮称)の実施方針案を発表した。

同方針案によれば、大学入試の英語科目は「20年度から民間試験に全面的に切り替える」A案か、「23年度まで現行方式のテストを継続し民間試験と併用する」B案の2案に基づき、6月中にどちらかの案の一つに絞り、英語はこれまでの「読む・聞く」に加え「書く・話す」も評価の対象となった。

これにより、実用英語技能検定(英検)やTOEICなど10種類の民間試験の中から、大学入試センターが水準を満たすものを「認定試験」として選定し、高校3年の4~12月に2回まで受験可能とし、良い方の成績を使用できるという。

ただ、民間試験を導入した場合、受験機会や評価の公平性を確保できるのかが疑問視されており、年間の実施回数や試験会場数、検定料など、それぞれの民間試験の違いや、地域や家庭の経済事情などで受験生の受験機会が狭まらない対策が必要になってくる。

こうした英語入試の変化についてバイリンガル育成のプロである英語塾キャタル代表三石郷史は「これから20年度に向けて日本の英語教育は大きく変わっていくでしょう」と語るが、必ずしもメリットだけではないという。

A案、B案ともに抱えるデメリット

「全面移行のA案では、英語試験の4技能化の改革が早く進むというメリットがあります。従来の『読む・聞く』だけの試験対策から、教育現場レベルで『書く・話す』ための英語力の強化が促進され、学生の4技能の向上に大きく貢献するでしょう。一方で、部分移行のB案の場合、英語入試改革のスピード感が落ちることは否めません。結局のところ入試が2技能のままであれば、習得の難しい「書く・話す」ための勉強のモチベーションは必然的に下がり、4技能の勉強をするインセンティブがなくなってしまいます。こうした状況を招けば、B案の部分移行にかかる4年間は、“英語改革の実質的な先送り“になるでしょう」

となれば、A案のほうが良さそうにも思えるが、全面以降に踏み切るにも相応の問題がある。

「民間試験のキャパシティーの問題があります。まず、候補として挙がっている『英検』は、準2級~2級レベルであれば多くの人が受けるレベルとしては適切ですが、“4技能”を測る試験としてはまだまだ課題を抱えています。4技能が正しく評価されるためには、配点が1技能に偏らず、均一でなければいけませんが、英検では「読む・聞く」の2技能に偏りがあるのが現状です。ではTOEFLはというと、これは4技能試験という点で、現状で最も優れている民間試験であることは間違いないです。私個人的には、いまの学生の皆さまに是非この試験にトライしてもらいたいと思っています。ただ、多くの人が受験するテストとしては、難易度が高すぎるという点が挙げられます。

CEFRによると、TOEFL iBTの72点以上で英検の準1級、95点以上で1級相当であるとされています。

TOEFLの難易度を少し落とした4技能試験というと、『TEAP』という民間試験もあります。これは上智大学と日本英語検定協会が開発し、2014年から実施されているもので、レベル感としては多くの受験生にとって最も現実的な選択肢であろうといわれています。しかし、まだ始まったばかりで、50万人の対応ができるかどうか疑問視され、面接を行う試験官の手配という大きな問題を抱えています。分かりやすくいうと、50万人の受験者をさばくために、5,000人の試験官が1日10人の面接をフル稼働でこなして、10日もかかる計算になります。これは現実的にかなりハードルが高いです。

TOEICでは『TOEIC SW』(Sはspeaking、Wはwriting)という試験が4技能に対応しています。これはコンピューターに向かって回答する形式のため多くの受験者にも対応可能で、一見良さそうにも思えるのですが、根本的な問題として議論すべき点があります」

TOEICが抱える根本的問題

TOEICの抱える根本的な問題とは何なのか?

「TOEIC試験の性質として、“ビジネスに役立つ”という点があります。一方、TOEFLやTEAPの試験はより“アカデミック”です。同じ民間試験とはいえ、英語の勉強へのアプローチ方法が全く異なるのです。

英語を学ぶ学生が、スーパーグローバル大学などへの進学や海外大学への留学を考えるなら、アカデミックな英語の習得が必要ですし、より実学やビジネスのための英語を学びたい場合はむしろTOEICの勉強の方が役立つに場合が多いでしょう。

大切なことは、“大学で必要な英語と、高校で学ぶ英語のミスマッチを起こさない”ことです。そのために、文部科学省は正しく民間試験を選定する必要があり、それが”高大接続”(高等学校教育と大学教育を一体としてとらえた教育のあり方)の実現のために欠かせません」

<文/HBO取材班>

三石郷史●株式会社キャタル代表取締役社長。優秀なバイリンガルに共通する学習法を日本で学べるメソッドを提供する『英語塾キャタル』を主宰。2002年の設立以来15年間延べ6000人以上の小中高生が4技能型の英語を学ぶ。

出典:HARBOR BUSINESS Online