アメリカの東海岸に位置する伝統的な私立大学8校の総称「アイビーリーグ」。ハーバード、イェール、コロンビアなどアメリカを代表する有名私立大学が含まれていますが、アイビーリーグ校の全8校をご存知でしょうか。その中でもダートマス大学は、おそらく多くの日本人が耳にしたことのない大学でしょう。この記事では、ダートマス大学の特徴や、実際に交換留学をしたキャタルの教師である麓えりさんの体験談を元に、リベラルアーツ教育について紹介します。
*こちらの記事は2022年7月21日に更新されました*
ダートマス大学(Dartmouth College)の概要
アメリカの独立が1776年、それまで、つまり植民地時代に創設された大学が9校あります。いわゆる「コロニアル・カレッジ」で、ハーバード大学、ウィリアム・アンド・メアリー大学、イェール大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、コロンビア大学、ブラウン大学、ラトガース大学、そしてダートマス大学です。
そのダートマス大学は、れっきとした総合大学ですが、コロニアル・カレッジたる伝統を保持する目的と、歴史的に重要な遺産と言える「ダートマス大学訴訟」(後述)もあり、そしてまた学士課程教育を当学の中核として重視する姿勢を強調するために、ダートマス大学はあえてカレッジを自称しています。従って、ダートマス大学の総学生徒数5,744人は、アイビーリーグ校中で最少となっています。
ダートマス大学(Dartmouth College)の基本情報
大学属性:私立
創立 1769年
校訓:Vox Clamantis in Deserto「荒野で叫ぶ声」
学生数:4.160名
共学/別学:共学
専攻:経済学、行政学、心理学・脳科学
学期:クォーター制
学費:47,000US$(寮費&食費US$14,000/年)
学生/教員比:10/1(大学院を含む)
必要なTOEFL点:iBT-100/ PBT-600
入学率:48.58%(合格者数:2,260人/入学者数:1,098人)
男女比:男 50.44%女 49.56%
留学生の割合:7.46%
ノーベル賞受賞者数:3名
ダートマス大学(Dartmouth College)の特徴
ダートマス大学は1769年の創設で、 アイビーリーグ8校のひとつです。ニューハンプシャー州ハノーバー市に本部を置く私立大学で、全米の大学の中で13番目に長い歴史を持つ学府となっています。
世界における普及の10大教育機関
2005年、コンサルティング会社ブーズ・アレン・ハミルトンは、ダートマス大学を「世界における不朽の10大教育機関」の1つとして選出しました。存続を脅かす幾つもの危機(よく知られている例は「ダートマス大学評議会 対 ウッドワード事件」)を乗り越えてきた業績を称えてのこと。ダートマス大学同窓会は、大学との密接な関係が良く知られており、ダニエル・ウェブスターを初めとして、19世紀から20世紀にかけて多く同窓生が大学に寄付を寄せています。そのため、ダートマス大学は莫大な基金を所有しており、全米屈指の裕福な大学のひとついわれ、2010年の時点で30億ドルを保有しているといわれます。
戻って、ダートマス大学の創立目的は、「インディアン部族と若きイギリス人、またその他の人々」にキリスト教化や指導、教育などを施すことでした。ネイティブ・アメリカンの聖職者だったナサニエル・ホイッタカーとサムソン・オッカムは、大学への出資を申し出て、代表として第2代ダートマス伯爵ウィリアム・レッグを送ったことから、その名が大学名に残りました。
ダートマス大学訴訟
世に有名な「ダートマス大学訴訟」について簡単に触れておきましょう。ダートマス大学がカレッジを自称することに深く関わるからです。
1816年、ニューハンプシャー州は大学に対する勅許を修正し、同学を公立(州立)大学に作り変えようとした計画に対して大学側が異議を申し立てました。しかし、「ダートマス総合大学」と呼称した教育機関がダートマス大学(カレッジ)の建物を占拠し、1817年にハノーバー市がその運営を始めたが、ダートマス大学(カレッジ)自体は総合大学の近くに賃借りした教室で独自の講義を続けていたのです。
ダニエル・ウェブスターと1801年度の同窓会員は、勅許に対する州の契約改定事項に違法な瑕疵(かし)があることを発見、大学施設の接収に対して抗議するためアメリカ合衆国最高裁判所に同州を提訴しました。その折の、声涙ともに下るウェブスターの演説が今も残り、しばしば引用されています。
(私が申し上げた通り、これはささやかなカレッジです。それでもなお、ここを愛する人々がおるのです。)
ダートマス大学の校訓は、Vox Clamantis in Desertoです。このラテン語の校訓は、正しくは主語特定で「荒野で呼ばわる者の声」ですが、ラテン語法に背いても学生全体を意味するように、との意図から、大学側はあえて主語を特定せずに、「荒野で叫ぶ声」としています。洗礼者ヨハネの言葉の引用であり、かつてヨーロッパの移住者たちの開拓地であった大学の所在地に対する言及でもあります。
ダートマス大学の入学難易度
ダートマス大学は、最高学府として世界有数の入学難易度を誇っています。2006年度入学生の例では、定員約1,000人強に対して受験生が13,933名、合格者は15.4%でした。合格率の下降傾向は、ここ数年アイビーリーグ校全体で見られ、2011年度にはダートマスの合格率は9.7%となりました。
ダートマスの3本柱
ダートマス大学には、欠かせない3本の柱があります。ダートマス医科大学院(Dartmouth Medical School – 1797年創立)、工学部の学士課程も担当しているセイヤー工科大学院(Thayer School of Engineering – 1867年創立)、及びタック経営学大学院(Tuck School of Business – 1900年創立)です。これが故に、ダートマス大学はアメリカ国内では事実上「ダートマス総合大学(University)」として認知されていますが、「ダートマス大学訴訟」に代表される歴史と伝統から、同学はすべての施設に「カレッジ」という名称を用いています。
3人のノーベル賞受賞者
ダートマス大学は三人のノーベル賞受賞者を輩出しています。物理のオーエン・チェンバレン、化学のK. バリー・シャープレス、それに生理・医学のジョージ・デイビス・スネルです。
日本人の知らないアイビーリーグのエリート校
ダートマス大学は、アイビーリーグの中で一番規模が小さいためか日本での知名度は低いですが、その卒業生たちの中には政府高官やCEO、ノーベル賞受賞者やオリンピックメダリストなど、様々な分野で活躍しているエリートたちが多くいるんです。ダートマス大学が誇るのは、少人数教育を中心とした学部レベルのリベラルアーツ教育。しかし実学分野での教育も評判が高く、アメリカ最古のビジネススクールの他にも、工学大学院や医学大学院といった、歴史と実力を兼ね備えている大学院を抱えているため、名実ともに米国内では名門校として高く評価されています。
そんなダートマスに交換留学をしたキャタルの教師である麓えりさんにお話を伺ってみました。彼女も留学先を探している中で初めてダートマスのことを知ったと言います。最初に大学の名前を目にしたときの感想は「アイビーリーグの一つなんだ…へぇ、知らなかった。」というもの。
それなのに、留学が終わる際には、「できればそのまま編入したかった!」という、ダートマスの魅力は一体どんなものだったのでしょうか。
熱い“ウェルカム感”に押されて
小学校4年生から中学校3年生までをイギリスで過ごした麓さん。帰国後に入学した高校では、「帰国子女」として何か特別なことをする訳ではなく、「普通の高校生」らしく部活動に没頭する毎日を過ごしました。
具体的な目標があると、英語はグングン上達する!バイリンガル教師 麓(ふもと)えり さんに突撃インタビュー
そんな高校生活を過ごす中で忘れられなかったのは、「麓は留学に行くべきだよ」という先生からの言葉でした。大学入学後も部活漬けの毎日でしたが、部活以外の“何か”を求めたとき、この言葉が脳裏によぎりました。当時所属していたゼミの先生にどういう大学に留学すべきか相談したところ、「アメリカの大学では、有名な教授が所属していても実際に授業を教えているのはTA (Teaching Assistant:授業助手)という場合が多いから、学生数に対して教授の人数が多い大学を選んだ方がいい」と教えてもらいました。このアドバイスを聞いて少人数教育を実践しているダートマスが候補の一つとなりました。
留学先を絞っていく中で最後の決め手になったのは、ダートマスの卒業生たちの“ウェルカム感”でした。卒業生たちと直接話すことができるアメリカ留学フェアで、「私は大学院卒だから学部のことは分からなくて」という消極的な他の大学と対照的に、「うちの大学は学部教育が命だから!」と熱く語るダートマスの卒業生たちの愛校心に背中を押されたのです。
寒い冬だからこそ育まれる絆と主体性
卒業後も母校のために熱心に活動する卒業生たち。彼らの愛校心がどのように形成されたのか、渡米後に実感することになります。
まず入学する前に参加する「ダートマス・アウティング・クラブ・ファースト・イヤー・トリップ」では、携帯電話や時計を持たずにアウトドア活動を行いながら5日間過ごし、上級生たちから薫陶を受けます。そして、入学後はほとんどの学生たちがキャンパス内の大学寮や、フラタニティやソロリティといった宿舎付きの学生クラブの寮に住むことになります。このような学生クラブは他の大学にも多々存在していますが、ダートマスの学生の所属率は全国平均より高い約6割!そういった学生クラブや日々の生活を通して、ダートマスの学生たちは絆を深めていくのです。
そして秋に入学して冬が近づくにつれて、学生同士の一体感はより強くなっていきます。というのも、ダートマス大学のあるニューハンプシャー州の冬は、なんと気温がマイナス20度にも下がり、太ももの高さまで積もるような深い雪に包まれる冬。大学の近くにある唯一の繁華街は、こじんまりとしていてすぐに遊び飽きてしまう。じゃあどうするか。自分たちで楽しむしかない!寒くて鬱々としてしまう状況を逆に楽しんでしまうその発想はダートマスの学生ならでは、と麓さんは言います。
「ウィンターカーニバルでは、“人間犬ぞり”をしたり、凍った池に穴を開けて飛び込んだり。そんなクレイジーなイベントも、寒くて長い冬をいかに楽しく過ごすかの工夫なんです」
そして寒い冬は3月の春休みになっても続きます。多くの学生が暖かい南の方へ旅行する中、麓さんは「ニューハンプシャーらしさ」を体験するため、メープルシロップ作りのメンバーに。大学の敷地内にあるメープルの森では、メープルシロップの採取が昔盛んでした。その伝統を再興するために始まったこの活動も、学生が主体となって山小屋を建てるところからシロップを商品化するまでに至りました。
寒くて雪が深い環境だからこそ作り上げられる、自分たちだけの世界。そこで育まれる主体性と発想の豊かさによって、ますます個性が磨かれ、絆が深まっていくのです。
学生自身が作っていく、オーダーメイドの学び
学部という枠組みが強い日本では、まだまだリベラルアーツ教育の考え方は理解されにくいものかもしれません。また、一般教養と呼ばれる文系科目から自由に授業を選ぶと、結果的には“広く浅い”知識だけになってしまい社会で通用するような専門性が得られないのでは、と不安に思われる人もいるでしょう。
リベラルアーツを実践するダートマスではそんな不安な声どころか、文系理系といった学問の領域を横断できる環境こそが、自分たちの個性を際立たせるために大事だと信じている気風があります。
日本では政治学科に所属していたため、ダートマスでも政治学の授業をメインに履修しようとしていた麓さんに、周囲の学生は「政治学ばかり取るの?!もったいない!歴史学、コンピューターサイエンス、ネイティブアメリカン学とか、せっかくなんだから色々取ってみた方がいいよ!」と。そんな声に押されて、ネイティブアメリカンに関する授業や言語学、歴史学など、日本で在籍していた政治学科では決して取ることができないような科目を履修することとなりました。
しかし、そういった幅広い科目履修の方法は、滞在期間が限られている交換留学生だからこそではなく、他の正規の学生にも当てはまるスタイルだったのです。
「2年生のときに専攻を決めるのですが、ダブルメジャーがとても多かったんです。しかも、思いもよらない組み合わせが多くて。例えば、『数学と歴史』とか、『音楽と数学』とか。だからとても卒論がユニークで面白かったんです。」
誰かが決めた学びのレールにとらわれずに自らその学びを作っていく。そして一見関係のなさそうな学問同士の掛け合わせだからこそ得られるオリジナルな視点を追求していく。そんなユニークな学生たちの要望を満たすことのできる、自由でレベルが高い教育環境だからこそ、本当の考える力を身に付けることのできるリベラルアーツ教育を実現できるんですね。
準備万端で挑んだ小テストでまさかのゼロ点
帰国子女として再度英語圏へ留学した麓さん。特に苦労することなく留学されたのでは? と思いきや、「最初は泣きながら勉強した夜もありました」とのこと。最初に履修した政治学の授業で課されたのは、膨大な量の参考文献のリーディング。文献の内容を理解して知識を得るために難しい単語を一つずつ調べながら読んでいたため、とても時間がかかってしまい、真夜中まで図書館にこもる日々が続きました。そして、授業を録音して何度も復習して挑んだ小テストでしたが、点数はまさかのゼロ点。そして他の授業でも同じようなことが…。途方に暮れて先生の研究室へ通ううちに、研究室の前に並んでいたクラスメートと話すようになり、そこで初めて現地の学生の“勉強のやり方”を知ることになります。
「参考文献を読むのは知識をつけるためじゃなく、授業内でのディスカッションのためだから全部読んでいないよ、って聞いてびっくりしました。文献はあくまで自分の意見を作るためだって、そこでようやく気づいたんです」
最後の学期に履修したゼミの授業では、周りの学生から学んだこの勉強のやり方で、ようやく手ごたえを感じました。このようにして自分で考えていく力を身に付けることができたこの授業のノートは、麓さんにとっての一生の宝物です。
学びだけではなく、人生もキャリアも自分たちで作っていく
ダートマスらしいリベラルアーツ教育を経験した麓さんは、ダートマスには文武両道でカッコいい学生が多い、と話します。
「本当にいつ勉強しているんだろう? っていうぐらいに、スポーツやフラタニティーなどの学生生活を思いっきり楽しんでいました。私が勉強してもいい点数が取れなかった授業にいたクラスメートたちは本当にスマートに勉強していました。例えば一番練習がキツいボート部に所属しているのに、最高得点のA+を取り続けている人がいたりして。…今までに出会ったことのない、次元の違う人たちでした。
そんなダートマスの学生たちは、卒業後どこで活躍しているのでしょうか。アイビーリーグの中でも、卒業後の平均年収が特に高いといわれており、学歴と能力を存分に生かして優秀なコンサルタントとして活躍しているケースも多々あります。しかし、そういった社会的な成功の枠組みにとらわれず、世界の辺境の地で活動するなど、あえて“エリートらしくない道”を選ぶ人の方が「カッコいい、ダートマスらしい」とのこと。
そもそも、ダートマスに入学した理由は「アイビーリーグだから」ではなく、「ダートマスだから」という人が多いとか。誰かが作った価値観ではなく、自分なりの価値観を大事にしていき、自分らしく世界に羽ばたいていくダートマスの学生たち。なかなか日本人にとっては馴染みがないダートマス大学ですが、“真のリベラルアーツ教育”を提供するこの環境では、学生たち自身の主体的な学びが尊重されるのです。頭が良いだけではなくオリジナルな世界観を持って自分なりの道を切り拓いていく学生たち、本当にカッコいいと思いませんか?
留学するなら交換留学制度という方法も
実際に海外大学への入学は英語力でも学費の面でもハードルが高いという方にキャタルが最もオススメするのは、大学在籍中の交換留学制度を使用することです。
特に長期交換留学が人気で、例えば慶應義塾大学では100校、早稲田大学では500校以上にも及ぶ協定校が世界中にあり、それらの大学に1年間行くことができます。また、日本の大学の学費を払うだけで比較的高額な世界の名門校で勉強できる場合が多く、人気の理由となっています。
交換留学についてまとめた記事をぜひご覧ください。
留学したいなら大学での交換留学がオススメ!留学方法や必要な英語力を徹底解説