新しい学力・人間力を身に着けた、生涯学習を可能とする人材の育成 海城中学高等学校 教育推進研究 センター長 中田大成先生 | バイリンガルへの道

新しい学力・人間力を身に着けた、生涯学習を可能とする人材の育成 海城中学高等学校 教育推進研究 センター長 中田大成先生

新しい学力・人間力を身に着けた、生涯学習を可能とする人材の育成 海城中学高等学校 教育推進研究 センター長 中田大成先生

明治24年から続く海城中学高等学校の、全3期に渡る学校改革

海城中学高等学校は1891年に創立し、今年で126年目を迎えました。100周年を迎える90年代、進学校として毎年東大に50人前後入学するような成果を挙げていました。
しかし実際のところ、大学へ入学したまでは良いのですが、その後学習を持続することのできない生徒が存在し、中には留年してしまう生徒も出てくるといった不名誉な結果を得ていました。
「国家(人類)・社会に有為な人材の育成」を建学の精神のもと、社会に出て活躍・貢献できる人材を育てる教育を行う上で、大学へ入った後も学習を続けられる生徒を育てなければならないという思いから、学校改革は始まりました。1992年を改革元年と呼び、その頃から現在にかけて、3期に渡る大きな改革を行ってきました。

第1期 ~新しい学力を養成する改革の始まり~

一人30~50枚の卒業論文に現れる、新しい学力の定着

第1期では、どのような取り組みを行ったのでしょうか?

第1期では、新しい学力を養成するプログラムが、社会科の総合学習を中心に始まりました。従来の知識獲得型の学力に対して、新しい学力とは、課題設定・解決能力のことです。
中学校では週2時間、教科書を持たない授業が行われます。様々な内容の課題が生徒に与えられ、それを解決するべく取材をし、文献を調査して、自分なりの解決法を見出します。その後、それぞれ発表を行います。毎学期、発表内容をレポートにまとめ、中学3年生では1~2学期をかけて一人30~50枚の卒業論文を書きます。
このプログラムの大きなポイントの一つは、必ず生徒に取材へ行かせるということです。単に文献やインターネットで情報を集めるのではなく、生徒は1年生の2学期から企業や役所、病院、大学などを訪問します。自分が抱えている課題の最先端の場所で、実際に問題と格闘している大人に会い、生の情報を手に入れてきます。そこへ文献やインターネットの情報を加え、自分で課題に対する解決法を考えます。

この取り組みを中学校で行ったことにより、高校へ進学した子ども達はどのように変化したのでしょうか?

物事を複眼的に考えられるようになりました。実際の現場へ訪問し、生の人間に会いに行くという行為は子ども達に大きなインパクトを与え、さらに1つの問題を解決するためには、あらゆる視点から物事を見る必要があるということに気付くきっかけとなります。
またこの取り組みは、キャリア教育にも繋がっています。自分が将来、社会へ出て何に取り組むか、どんな仕事を持つか、そのモデルとなる一つを中学生の段階で見てくるのです。
高校へ上がると、当然のように大学進学のことを考え始め、さらにその先にある社会進出のことを考えていかなければなりません。そのような時期を迎える前に、そもそも「働く」ということはどういうことなのか、今の日本の社会はどのようになっているのかということを、生の大人に会いに行くことで自分自身の肌で感じること・知ることは、子ども達にとってとても大切なことなのです。

第2期 ~新しい人間力を養う改革~

表現力の基礎は、いつもコミュニケーションの中にある

第2期の改革が行われた目的を教えてください。

第2期では、新しい人間力を養成するプログラムの開発を行いました。現在の日本社会は非常に成熟しており、またグローバル化が進んだことによって世界の人々との関わりが増えたことから、人々の価値観が多様化するようになりました。
自分の常識が相手の常識と一致しないような社会で、どのように生きていくのか、どのように人と関わっていくのかということが、大きな問題となります。
新しい人間力とは、協働力・表現力のことを言います。異質なもの同士が上手く働くことで、高いパフォーマンスを生み出すことを可能とし、それは問題を克服することへ繋がります。そのための力を養うことが、第2期の大きな目的です。

人間力を養うため、どのような取り組みを始めたのでしょうか?

教科書を使う道徳的な学習ではなく、身をもって体験することを通じて学ぶものでなければいけないと考え、体験学習のプログラムを導入しました。
その一つが、ドラマ・エデュケーションと呼ばれるプログラムです。ヨーロッパやイギリスで行われているものであり、演劇的な手法を使いながら、人間関係力や想像力、表現力を高めていくというものです。

ドラマ・エデュケーションを通じて、子ども達はどう変わっていくのでしょうか?

このプログラムを通じて、生徒達はコミュニケーションの基礎と、表現力を学ぶことができます。
演劇というのは、俳優一人一人は個人ですが、複数の人間で一つの作品を作り上げるために、作品のイメージを全員で共有しなければなりません。そのイメージ共有をはかるためにお互いに関わり合う中で、コミュニケーション力は養われていきます。
また生徒は、自分達が作った作品を、最後は観客に届けるということを行います。演劇の指導はプロの方々にしていただいているのですが、芝居というものは、相手に伝わることで初めて価値が見出されるということを、とても厳しく教えられています。
自分達の作品を観客にしっかり届けるということを通して、表現力が養われていきます。

第3期 ~グローバル化対応と、これからの教育~

高い英語力を含めた、ダイバーシティの実現に成功している学習環境が生み出す影響

現在も続く第3期の改革では、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

第3期では、グローバル化対応を本格的に始めます。2011年より高校募集を取りやめ、中高完全一貫化しました。
また、中学校において30人の帰国生を迎え入れ、各クラスに均等に配置するようにしました。異なる学習体験や生活体験を持った生徒が、日本で育った生徒と同じクラスになり、お互いの体験を共有することで、多様性に対する寛大さや理解を深めていきます。異質なもの同士が、上手く関わり合うためのスキルを身に着けるべく、ダイバーシティの高い学習環境を設計していく取り組みです。

帰国生が持つ英語力が、クラスに影響を与えるといったことはありますか?

英語力の高い帰国生が、クラスに影響を与えるといったこともあります。また、文化の異なる外の環境で鍛えられてきているということもあり、その経験がクラスに与える影響はとても大きいです。
今年の春に、帰国生第1期が卒業しましたが、進学実績は非常に高くなりました。教員の話によると、英語がかなりできる生徒がいることで、国内入試においても有利に働いたということでした。

生涯をかけて学び続けることができる人材を育てる

2020年の入試改革では、新しい学力が必要になると言われていますが、なぜ今、新しい学力や人間力が求められているのでしょうか?

日本が欧米にキャッチアップする段階では、体系的な知識を頭の中に入れ、必要な時にそれを自在に取り出すといった能力があれば十分でした。
しかし、今は日本国内においてもシステムが非常に複雑化しており、様々な問題が起こっています。例えば少子高齢化というのは、世界で最も早く進んでいるかもしれません。そうなると、他の国に解答を求めるのではなく、自分たちで問題を解決していかなければなりません。自ら問題を発見し、課題を定め、それを解くための情報を集めて分析し、解決法を考える必要があります。そしてその解決法を実行するために、周りに分かりやすく表現し、行為としてそれを遂行するという新しい能力が、これからの時代に求められているのです。

新しい能力を養う方法として、これまでとは違う学習法が必要になるかと思うのですが、どのような学びのスタイルが求められるのでしょうか?

どんな物事においても、楽しいと感じるものは潜在的な記憶に残りやすいです。本校では今年から、高校においてKSプロジェクトというものを始めました。生徒一人一人の知的な興味・関心を深堀できるような様々な講座を、教員が自身の専門性に基づいて自由に設定し、関心のある生徒を集めて徹底的に学ぶというものです。
キャタルの授業方針の一つとして、学習に対する楽しさを追及する姿勢があるかと思いますが、生徒が「学ぶことは楽しい」と感じられるきっかけをこのプロジェクトを通して作ることで、学習に対する意欲を自ら調達できるようになってもらいたいと思っています。
これからの未来では、いかに持続的に学習することができるかということが重要となります。これだけ流動性の高い時代に、大学で学んだことがいつまでも通用するなんていうことはあり得ません。生涯をかけて学び続けていく力が必要なのです。それができる子ども達を育てる教育が、今まさに求められています。
この記事は、2017年5月12日、ラジオ”In the Dreaming Class”の内容です。