スーパーグローバル大学に選抜された立教大学の目指す教育 立教大学副総長山口和範氏 | バイリンガルへの道

スーパーグローバル大学に選抜された立教大学の目指す教育 立教大学副総長山口和範氏

スーパーグローバル大学に選抜された立教大学の目指す教育 立教大学副総長山口和範氏

この記事では、スーパーグローバル大学に選ばれた立教大学の副総長及び経営学部経営学科教授の山口和範先生に、立教大学の目指す教育についてお話を伺いました。

2014年に文部科学省は「スーパーグローバル大学創成支援」事業を創設しました。世界トップレベルの大学との交流・連携を実現、加速するための新たな取組や、人事・教務システムの改革、学生のグローバル対応力育成のための体制強化など、国際化を徹底して進める大学を重点支援することを決めました。その支援対象となる大学をスーパーグローバル大学と呼び、全国から30校程度の大学が選抜され、それぞれトップ型(タイプA)グローバル化牽引型(タイプB)に分けられています。

トップ型(タイプA)

世界ランキングトップ100を目指す力のある大学を支援。東京大学、京都大学など選抜。

グローバル化牽引型(タイプB)

これまでの実績を基に更に先導的試行に挑戦し、国内のグローバル化を牽引する大学を支援。東京外国語大学、上智大学、立教大学など選抜。

立教大学の改革

スーパーグローバル大学としての新しい構想とは?

グローバル化牽引型(タイプB)に選抜された立教大学は、スーパーグローバル大学として他の大学をどのように牽引していこうと考えていますか?

立教大学のスーパーグローバル構想とは、グローバル化に対応するというだけではなく、総合的な改革を進めていくということです。それはカリキュラム、ガバナンス、そして学生の意識の改革という3本柱で成り立っています。これら全体を通じて、立教大学が世界に通用する大学になることを目指しています。
具体的な改革の1つとしては、まず10年以内に全学生に対して、海外体験をさせてあげられる環境を作るということです。大学を卒業後、日本の国内外に関わらず仕事をする上で、海外体験を積んでいるかどうかということは今後非常に重要となります。社会へ出る前に、全学生が海外体験を積むことができるようにしてあげたいと考えています。
また、副専攻制度を導入することも検討しています。現在多くの大学では、一年時に決まった学部や学科へ入ると、その専攻分野のみを勉強して卒業していくことがほとんどかと思います。しかし立教大学では、18歳の頃に決めた学部や学科だけではなく、学生が勉強しながらいろいろな可能性を広げられるようにしたいと考えています。

英語力に関しまして、立教大学では全学生が卒業までにTOEIC750点を目指すと言われていますが、このスコアはどのように決めたものなのでしょうか?

英語だけができればグローバル人材になれるかというと、決してそういうわけではありません。しかし、自分が持っている実力を世界で発揮しようと思った時に、ある程度の英語力は必要になります。これまでの日本人は、英語力が不足するがために、本来持っている実力をなかなか世界へ向けて発揮することができない傾向がありました。このようなことがないようにするために、最低限の英語力は身につけてほしいという考えからTOEIC750点というスコアを定めています。これはあくまで最低ラインのスコアなので、もっと上の学生がたくさん現れることを望んでいますし、そういうことができる環境を用意していきたいと思っています。

これからの大学入試と学び

バランスの取れた確かな学力を養うためのボーダレスな学びが求められる

立教大学は2016年より、英語の試験において4技能試験を導入することをどこの大学よりも早く発表しましたが、こちらの意図はどのようなものなのでしょうか?

従来の英語の試験で必要な能力の中心であった読む・書く力に加え、実際に大学で学んでいく際には聞く・話す力が必要となります。これら4つの技能をバランス良く持った学生を選抜したいという思いから4技能試験の導入を決めました。そしてもう一つ、この発表には高等学校における英語教育に関して、4技能をバランス良く学習することを支持する思いも表明しているのです。
これまで様々な新しい入試が導入されてきた中で、昔に比べて受験産業界が活発になってきました。大学入試が「総合的な学びをはかるもの」という方向へ行かず、高校生の学習の形が「入試で点数を取ること」を目指したものになってしまい、入試において選択する科目のみを勉強すれば良いという学びに繋がってしまっています。これは、日本の受験システムにおいてずっと危惧し続けられてきたことなのです。例えば経済学部において、経済の勉強をする時には数学の知識が必要なのに、入試で数学科目が設定されていないがために、数学をしっかり勉強してこなかった学生が大勢いるということが現状です。本来ならば、バランス良く勉強することが必要であり、入試で決められた科目の得点をきちんと取るという、いわば「訓練」のような勉強になってしまうと、「学力」を身につける勉強とはかけ離れてしまいます。
4技能試験を導入することには、学生が英語においてバランス良く勉強してほしいという思いと、これからの教育の方向性そのものをバランスの取れた本来の学力を養うものへ変えてほしいという願いを込めているのです。

記憶力やテクニックなどによって高得点が取れるようになってしまっている大学入試を、「総合的な学びをはかるもの」にしていくには、今後入試をどのような形に変えていくべきであると考えますか?

これからの入試問題では、「難しい問題」をどこまで出せるかということが鍵となってくると思います。難しい問題というのは、重箱の隅をつつくような問題ではなく、範囲を超えた問題という意味です。これまでの入試制度では範囲が定められており、定められた範囲のものをしっかり勉強してきてもらうというものでした。しかし、本来ならばもう少し多様な考え方が必要な入試問題を作ることができるはずなのです。例えば数学に関して、数学A、Bとある中で範囲をAのみと定めてしまうと、AとBの両方の知識を使う問題を出題することができません。定められた範囲でのみ出題するのではなく、科目の範囲をボーダレスにすることで、単に知識を問う問題ではなく、それぞれの知識を発揮できるための入試を作ることができると考えています。

2020年にセンター試験が変わりますが、立教大学では入試改革に伴い、どのような人材を選抜していきたいと考えていますか?また、大学に入ってからはどのようなことを学生に身に付けてほしいと思いますか?

元々大学における学びというのは、例えば科目におけるボーダーというものがあって、その範囲内で勉強するというものではありません。閉じた世界において、その中で点数が取れるということでは決してなく、広がりを持つ、学び続ける、新しいことにチャレンジすることができる力を持った人に大学へ来てもらいたいと思っています。
これからの世の中には、感じる力や人間力といった総合的な力を持つ人材が必要です。大学における学びは本来、リベラルアーツや芸術、スポーツなど全てを含めて学ぶ経験を積むというものです。世の中には常に正解が存在するものばかりではなく、様々な物事を科学的に考えていく上で、どこか不完全な状態でも判断をしなければならない時があります。そのような場面において、人は今まで培ってきた経験や持っている感性によって最終的な判断をするのです。その時の判断が、良い方向へ向かうようにするためにはどうするべきなのかということが、まさに大学教育で培われるものなのです。

これからの日本の大学の役割

グローバル化に合わせて、世界の未来を創造する力を養う場を提供する

グローバル化が進むということは、多様性を受け入れるということに繋がると思うのですが、立教大学では入試において多様性もはかるようになるのでしょうか?

多様性に関しては、大学側が最初から多様性を備えた人材を得ることは難しいのではないかと思います。ただ、大学の中が多様性に溢れる環境になるということはとても重要です。海外から入学してくる学生は、高校時代の背景が日本の学生とは異なっているかと思います。また、スポーツなど何かを一生懸命やってきた経験があり入学してくる学生は、他の学生より協調性に優れているかもしれません。それぞれが様々な意味で優れており、そのような学生が集まることは大学の中における学びが豊かになることへ繋がります。学生のみならず、職員、教員含め大学内のダイバーシティをキープすることが、多様性を受け入れる環境を作る一歩となると考えています。

インターネットが普及したことで、国内外のボーダーがなくなりつつあり、あらゆる面でボーダレスな社会が進んでいますが、これからの大学のキャンパスが持つ意味とはどのようなものでしょうか?

人と人との繋がりが一番だと考えます。キャンパスは学生と教員、先輩と後輩などといった、人と人との出会いが生まれる場です。近年インターネットを使用した大学の講座が普及し、韓国など海外においてはこのスタイルを持った大学が増えています。インターネットを使用することで、知識や技能の習得が可能な時代となった一方で、全てをインターネットで補うことができるかというと、そうではありません。インターネットではできないことこそを、従来の大学は重視するべきなのです。人と人との繋がりを大切にし、そこで得たネットワークは自分の人生にとって大きな財産となります。大学は単に研究、教育の場というだけではないのです。

大学という教育機関の大きな役割を教えてください。

本来の大学の役割は、未来を創造する若者が学ぶための環境を提供する場であることです。しかし、現在の大学生と接している中で一番危惧することは、今の社会に適合する形に合わせて、若者が就職活動を含めて活動しているということです。これは、本来大学が持つ役割とは異なったものです。未来を創造するというのは、日本の未来を造るというだけではなく、世界の未来を考えるということであり、大学はそのような場でなければいけません。今、日本の大学の役割はこのグローバル化に合わせて変わらなければいけません。学生が世界の未来を創造する力を養うこと、そして大学は世界のための大学であるという意識を持つことが求められているのです。