これからの「学び」に対応する変化と、求められる力 東京大学及び慶應義塾大学教授 鈴木 寛 | バイリンガルへの道

これからの「学び」に対応する変化と、求められる力 東京大学及び慶應義塾大学教授 鈴木 寛

これからの「学び」に対応する変化と、求められる力 東京大学及び慶應義塾大学教授 鈴木 寛

「すずかん先生」の名で知られている鈴木 寛(ひろし)先生は、東京大学及び慶應義塾大学の教授であり、文部科学大臣補佐官、日本サッカー協会理事、社会創発塾塾長といった、数多くの役職を務められています。
東京大学法学部をご卒業後、1986年に当時の通商産業省へ入省しました。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス助教授を経て、2001年には参議院議員に初当選しました。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務められ、高等学校の完全無償化などといった教育政策において数々の実績を残されました。2012年には、一般社団法人社会創発塾を設立し、2014年より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授に同時就任されています。国立と私立の両大学で教授として就任される例は過去になく、鈴木先生が初めてのケースとされています。

大学入試の変化とその学習法

思考力、判断力、表現力、そして協働力が、これからの入試に求められる

2020年にこれまで行われてきたセンター試験が大きく変わると言われていますが、大学入試はこれからどのように変わっていくのでしょうか?

今までの社会では、マニュアルを覚え、それを高速に正確に再現する力が求められていたので、暗記力やそれを反復する力が重要であり、入試においてもその力が問われていました。しかし現在は、デジタルテクノロジーや人工知能が、人間の代わりにその作業を行ってくれるようになりました。
これからの時代は、多様な人達と創造し、この世に1つしか存在しないものを作っていくということが、人間の仕事となります。その為に何が必要かというと、もちろん基本的な知識なども大切ですが、それ以上に思考力、判断力、表現力、そして主体的に多様な他者と協働する力が求められます。そのような積極性を養うべく学習指導要領を変え、またこれらの力をはかるような入試に変えていくということです。

思考力、判断力、表現力をはかる試験というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか? また、その試験に対応するためには、どのようなことが必要なのでしょうか?

思考力、判断力、表現力をはかる試験では、「かく」ということが非常に重要となります。それは文字を書くというだけではなく、絵や設計図などを描くということも含まれます。白い画用紙、あるいは原稿用紙に自分の考えをかくという、広い意味での記述式の試験になるということです。
記述式の問題では、正解は1つではありません。現在、センター試験は55万人が受験していますが、記述式問題となると55万通りの答案が出てくるということです。採点側にとっては非常に大変な作業ですが、2つと同じ答案がないというところが、まさに人間の持つものの表れなので、そういった意味においても記述することが重要であると考えます。
記述式問題に対応するためには、まず膨大な読書をしてもらわないといけません。また、議論するということも大切なポイントです。多くのインプットを行い、それをみんなで議論することでアウトプットし、この作業を繰り返し行うことで、深い思考力、判断力、表現力を磨くことができます。

記述式の問題は、どの程度含まれるようになるのでしょうか?また、主体的に多様な他者と協働する力とは、どのようにはかることができるのでしょうか?

センター試験では約120文字の記述問題が課されるようになり、現在4割の記述問題が課されている国立大学の2次試験では10割が記述問題となり、300文字以上のものが課されるようになります。
主体的に多様な他者と協働する力をはかるということは、高校3年間の中で机の上の勉強以外の、実社会と関わるプロジェクトをどれだけ行い、どのように打ち込んできたかという、3年間の「活動」をしっかり見るということです。現在、AO入試や推薦入試といった入試では、高校3年間で何をやってきたのか、そして大学に入ってからはそれをどのように加速させ、広げていくのかということが問われます。このような入試による国立大学の定員数を、今後は入学定員枠の3割にあてていきます。

これからの学校教育に求められる変化

フィードバックを充実させることが、今後の教育の要となる

大学入試が変わると共に、これからの教育にも変化が求められるという印象を受けるのですが、中学校や高等学校の授業はどのように変わっていくべきなのでしょうか?

今までは中学校や高等学校において、ほとんどの人が暗記中心の学びを行っていたと思います。これからは、この「覚える学び」から「考える学び」に変わっていかなければなりません。この学びの転換を行う上で必要なことは「アクティブラーニング」という、生徒が主体的に学ぶ姿勢を可能とする授業を展開することです。
生徒が主体的に学ぶ授業では、生徒の取り組みに対し教員がフィードバックを与えるということが非常に重要となります。このフィードバックを与えるという作業は、教員にとって大変なことではありますが、逆にいうと、そこに教員の力量が問われるようになるということです。何が出てくるか分かりませんので、大量の引き出しを持ち、生徒一人一人の文脈に応じてそれを使うことが求められます。
教員の方々に頑張っていただくことはもちろんですが、加えて実社会で多様な経験を持つ方々に学校現場へ入っていただき、教員だけではなく、そのような方々からもフィードバックをいただくという合わせ技が、これから必要になってくると思います。

生徒へのフィードバックを充実させるために、学校教員以外の方々が介入している例はありますか?

コミュニティ・スクールという制度があり、これは学校教員だけではなく、地域の方々や学生ボランティア、保護者など、多様な人達が学校の運営に関わり、生徒の学びをサポートするというものなのですが、現在小学校と中学校では非常に充実しており、全国の3600校がこの制度を取り入れています。
しかし、高等学校においては、まだまだ充実していない現状があります。全国で高等学校は5000校ある中、40校ほどしかこの制度を取り入れていません。小中学校と比べ、実社会に一番繋がっている高等学校をコミュニティ・スクール化することで、多様な経験を持つ方々が学校に入ってくることを進めたいと考えています。
また、大学院生に高等学校の学びの現場へ入ってきてもらうということも大切です。現在、スーパーサイエンスハイスクールは200校ありますが、大学院生が相当介入しています。これは高等学校と大学が協力して作られているものなので、こうしたネットワークを広げていくということが重要なのです。

英語学習に関して、他教科とは異なり4技能のフィードバックが必要になってくるかと思うのですが?

その通りです。
なので、4技能のフィードバックを行える体制を作るということが重要なのです。
そういう意味で教員研修はとても大切であり、また4技能を教えられる人材を社会人の中から採用していくということも必要になります。また、現在はインターネットを活用することができるので、世界中の英語を母国語としている方々へフィードバックを依頼するということも可能です。

フィードバックを充実させるということは、生徒一人一人の学びを充実させることに直結するということでしょうか?

まさにその通りです。「アクティブラーニング」を行う上で、フィードバックはそれだけの価値があるということなのです。
人はそれぞれ学習のパターンというものがあり、耳から入るものが得意な人もいれば、読み書きが得意な人もいます。そのような違いがある中、どれだけ生徒一人一人の学びのパターンに応じた、個別化された学習環境を提供していくことができるかということが、今後とても重要なポイントとなっていきます。そういった意味で、学校教育だけではなく、ESSなどといった放課後の活動、サマースクール、塾などといった民間教育、地域教育、NPOなどの活動が相まって、生徒一人一人にとってベストな環境を作り上げることができれば良いと考えています。

実行力について

主体的な学びに必要な実行力を養う方法とは?

常に学生達へ手厚いフィードバックを行うように心がけている鈴木先生の、教育のコンセプトを教えてください。

教育のコンセプトは、ソーシャル・プロデューサーを養成するということです。プランをプランで終わらせるのではなく、実現させることが大切であると考えています。

プランを実現させるという実行力が、これからの教育に必要ということでしょうか?

実行力はとても大切です。現在、文部科学大臣補佐官として、入試改革と共に学習指導要領の改革を行っていますが、その中のキーワードはやはり「アクティブ・ラーニング」です。具体的なプロジェクトを自分達で企画し、それを実現させることで主体的に学ぶという取り組みを、中学校や高等学校段階から入れていこうと考えています。

現在の中高生が、実行力を養うためにできることはどういったものでしょうか?

中高生のうちは、何か夢中になれるものを探してほしいと思います。この頃に夢中になったものが根っことなり、大人になってからも反映されるものです。それは部活動や、学校行事を通してできることです。部活で試合がある場合、どうやったら勝てるか徹底的に考え、それを実行し、修正するという過程を繰り返し行うことで、実際に勝利を掴むことができるようになると思います。また体育祭や文化祭などにおいても同じように、実行委員会に入ることで、どのようにすれば行事が盛り上がるかということを考え、実行し、修正するということが必要となります。
このように、自分にとって夢中になれるものに対し「自分で」考え、行動するということが、実行力を養うポイントなのです。なので、中高生達には人生をかけて夢中になれるものを1つでも2つでも見つけてほしいと願っています。
この記事は、2017年7月21日、ラジオ”In the Dreaming Class”の内容です。