<学校の概要>
東京都立日比谷高等学校(以下、「同校」という)は、東京都千代田区永田町にあり、永田町駅、赤坂見附駅、溜池山王駅、国会議事堂前駅から徒歩7~8分で通学できる。1978年に設立され、現在は男女共学の学校であり、授業は45分が7コマである。
東京都教育委員会より、東京グローバル10や進学指導重点校に指定され、グローバルリーダー育成に力を注いでいる。国語、数学、英語において、入学者選抜学力検査に自校問題を導入している。
<基本情報>
公立普通科高等学校
スーパーグローバルハイスクール(SGH)アソシエイト校
生徒数:968名(2014年12月~2015年2月時点)
共学/別学:共学
学期:3学期制
学費:約25万円(初年度、高等学校)
国内大学進学実績:早稲田大学、慶應義塾大学、明治大学、東京理科大学.、上智大学、東京大学、千葉大学、一橋大学、北海道大学など(2015年)
海外大学進学実績:Foothill College(2015年)
英語などの土曜講習を実施している
1限の授業は8時25分に始まり、45分の授業が1日に7コマある。5限は12時45分までで、6限は13時30分に始まる。土曜日には補習を実施していて、1・2年次には英語の講習がある。2015年度の土曜講習は、1年次には3教科について開講し、前期2日と後期6日である。2年次は4教科について開講し、前期2日と後期5日であり、3年次は5教科について開講し、前期18日と後期12日である。
1・2年生は全員が、ほぼ共通の教科・科目を学ぶ。2年生の自由選択科目は、英語表現Ⅰ、ドイツ語、フランス語、中国語、ハングルから選択し、週1回放課後(8・9限)に履修する。3年生は、午後の授業を全て自由に選択し、最大6科目を選択できるが、自由選択を履修しなくても卒業は可能である。卒業に必要な単位数は80であるが、必修の履修単位数が合計94~95である。
予習・復習を徹底し、学年に応じて段階的指導を行う
全学年において英語の授業で予習・復習を徹底し、コミュニケーションに対する積極性を育むことを目標としている。1年次にはリスニングに力を入れ、2年次にはライティングの指導を行う。3年次には、社会で必要になる高度なコミュニケーション能力を養う。学校行事としては、英語スピーチコンテストを行っている。
国公立大学182、早稲田155、慶應義塾131という合格実績(延べ人数)
2015年の国公立大学の合格数(カッコ内現役)は182(107)で、そのうち医学部医学科は18であった。国公立大学別の合格数は、東京大学37(19)、千葉大学16(13)、一橋大学14(10)、北海道大学10(4)などである。
私立大学の合格数は、早稲田大学155.(98)、慶應義塾大学131(86)、明治大学108(85)、東京理科大学74(42).、上智大学43(36)、中央大学37(19)、立教大学35(28)、青山学院大学30(21.)などである。
同校では5~6教科7科目の大学入試センター試験、および4教科6科目の国公立二次試験に対応できる教育課程を実施している。医学部の合格数は、国公立18(7)と私立35(9)である。
東京グローバル10とスーパーサイエンスハイスクールに指定されている
平成26年度、東京都は国際理解教育を先導的に推進する学校を「東京グローバル10」とし、同校はそれに指定され、様々な取組みを行っている。たとえば、ALT(外国語指導助手) および JET (語学指導等を行う外国青年招致事業)の英語指導員が英語教育を行う、地球規模的なテーマの課題研究、国際金融政治経済や人文・社会科学の分野で活躍している著名な学者・研究者による講演会、アスペン研究所との連携、ボストン・ニューヨーク海外派遣研修などを実施する。
ボストン・ニューヨーク海外派遣研修では、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学 の研究室訪問、学生との交流、連邦準備銀行(FRB) や国連本部への訪問、アスペン研究所訪問などを行う。これにより、アメリカ合衆国の建国の歴史を学び、金融・国際政治経済の中枢に触れ、探究してきた研究課題の成果を提言して著名な先生のアドバイスを受けることができる。
また、高大連携・接続を目指し、東京医科歯科大学のスーパーグローバル大学(SGU)創成支援事業に加わり、大学生とともに英語で討論するグローバルコミュニケーションワークショップや、英語によるディベート大会に積極的に参加する。他には、生徒の代表が、アメリカ大使館が主催するEmbassy Academy プログラムのワークショップに参加し、英語による講義とディスカッションに加わった。
さらに同校は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、理数教科で創造性を育んでいる。このように人文・社会科学分野と自然科学・科学技術分野の両方において、グローバルリーダーを育成している。2015年に生徒がスーパーグローバル委員会を発足し、学校とともにグローバル活動を運営している。
国公立大学や早慶上理への進学者が多数で、医学部など理系の進学を志望する生徒にも適している。現役の合格実績が優れていることから、英語の授業レベルは高いといえる。
日比谷高校 竹内彰校長にインタビュー
ここでは、キャタル代表三石と日比谷高校の竹内校長がラジオ番組で対談した内容をご紹介します。
進学重点校としての取り組み
教育指針は「将来のリーダーを育てる」こと
2012年に日比谷高校の校長先生として着任されて以来、東京大学の合格率が伸び続けていますが、東大合格へ向ける何か意識的な変革はあったのでしょうか?
日比谷高校には、元々東大を志望する生徒がたくさんいますが、決して学校が東大合格という目標に向けて、それに特化した教育を行っているというわけではありません。
日比谷高校では、「将来のリーダーを育てる」ということを目標にしています。リーダーとは、0から1を生み出すことができる人、クリエイティブな思考力を持つ人のことを指します。
書くことで分かる、思考力のレベル
進学指導重点校(※1)の1つとして、日比谷高校の入試では従来の共通問題ではなく、自主制作
問題を導入していますが、その意図は何でしょうか?
自主制作問題を導入したことで、記述式の問題を多く取り入れることができるようになりました。記述式の問題は、思考力をはかる材料となります。むしろ、思考力がなければ書けない、と言う方が正しいでしょう。マークシート式の場合、ケアレスミスによって判断されることがありましたが、記述式という受験生の思考力を問う問題を扱うことで、本当の意味で高い学力があるかどうかをはかることができます。日比谷生が目指す難関国立大学の個別試験では、将来に繋がる思考力を持っているかどうかが問われており、その力を十分に持つ学生が求められています。そして、そこへ繋がる土台を持っているかどうかを、日比谷高校の学力検査問題では試させていただいています。
十分な思考力があれば、書くことができます。その力を備えた人が日比谷高校へ入り、その後難関大学へ行き、さらに将来も活躍していきます。学びは必ず、将来へ繋がっていると考えているのです。
(※1)進学指導重点校:東京都教育委員会指定により、進学指導の充実を図り、進学実績向上に重点をおいた都立高等学校。
実績を残す学校の取り組み
進学指導重点校としてのメリットは何でしょうか?また、教育の質を維持するための取り組みを教えてください。
先程お話ししました自主制作問題を導入することができるということと、東京都教育委員会の支援を受けていますので、公募制人事の配置が可能であったり、プラスαの予算をいただいたりすることができます。
教育の質を維持する上で、教員や生徒のモチベーションを高めることがとても大切であると考えています。日比谷高校には専任教員56名、非常勤講師を合わせると70名近くの教員がいますが、その全員に対して年2回の授業見学を数か月に渡って行います。見学後は副校長と共に面談を設け、良かった点や期待したい点などについて話し合います。優れた教員のノウハウは他の教員と共有するなど、教員一人一人の指導を伸ばす取り組みを行っています。
「新しい知識を学ぶことが面白い」と思える工夫のある授業
かなりの勉強量が生徒の目標となっていますが、自学自習を行う上で生徒のモチベーションを維持するためにどんな工夫をしていますか?
生徒のモチベーションを維持するために、教員が心掛けたいことの一つが、授業の中で一方通行な知識の伝達が行われるのではなく、生徒にきちんと考えさせる場面を作るということです。生徒がそれぞれの頭で考えたことを自分の言葉で表現し、また自分と異なる考えを聞くことで自身の思考を深めていくということが、集団で学ぶ面白さです。
実際の授業において、1クラス40人の一人一人の意見を聞いていくことはなかなか難しいことです。教員はあらかじめ発問を用意していく場合や、英語の授業であればペアワークやグループのディスカッションをする機会を作ることで、意見交換をスムーズに行える環境を用意する工夫をしています。
新しい知識を学ぶことが面白いと思えるきっかけが授業にあるべきであり、そのきっかけを多く持つことで、学校の外でも自分で学びを深めていくようになると考えています。自学自習の確立は、授業がきっかけになるということです。高校以降の学びは、与えられるものではなく、自ら学ぶ姿勢へ転換する時期です。その転換ができる生徒が、大学でも学問探求に目を向けていくことができるのです。
日比谷高等学校の英語教育
4技能を高める、オールイングリッシュの授業
日比谷高校で行われている英語教育の特徴を教えてください。
日比谷高校では、以前は日本語による英語の授業が行われていました。しかし3年前に、英語における4つの技能を高めるために、英語の授業は原則英語で教えるというスタイルへ転換しました。この最初の転換期に関わった生徒が、今年の春(2017年3月)に卒業しました。今はこのスタイルを継承しています。細かいところではまだまだ修正が必要ではありますが、世界へ出ていくための英語力を身に着ける準備・取り組みが、ちょうど確立したところです。
ALTと日本人教員の豊かなコミュニケーションが授業の質を上げる
オールイングリッシュの授業を行う上で、日比谷高校で勤務されている英語の先生やALTの方々の様子はどういったものでしょうか?
現在、日比谷高校で勤めている英語教員は全員、文科省が学校の教員に求めている英語力であるCEFRのB2(※2)以上のレベルをクリアしています。また、ジェットプログラム(※3)によって派遣されているネイティブスピーカーの教員が2名常駐しています。
日本人の英語教員がB2レベル以上の英語力を持つことで、ティームティーチングの授業を有効に機能させることができます。近年、学校の教員の英語力が低いことが話題になっていますが、授業の中で生徒が4技能を高められる仕掛けを作っていくことがより重要であり、そのために必要な英語力を教員は持つべきであると考えています。
ALTとのコミュニケーションは、授業内容を豊かにするために必要不可欠であり、教員同士のコミュニケーションが豊かであればあるほど、授業の質は磨かれ、それは生徒の英語力向上という結果に反映します。ALTもとても優秀で、日本人教員に教材を提案してくるといった様子もあり、今では相乗効果によって英語の授業がより良いものに作り上げられています。
※CEFR(セファール):語学のコミュニケーション能力別のレベルを示す国際標準規格。B2は英検準1級レベル相当。
※ジェットプログラム:地方自治体が実施する「語学指導等を行う海外青年招致事業」の略称。
有名大への訪問や複数の交換留学先が選べる、充実した海外交流
生徒が海外へ行く機会はありますか?
夏休みを利用した海外派遣研修を2つ用意しています。1つはアメリカ西海岸へ行くコースであり、スタンフォード大学、シリコンバレーを訪れた後、ハワイ島へ飛んでフィールドワークをするというものです。もう1つは、ボストン・ニューヨークへ行くコースがあり、ボストンではマサチューセッツ工科大学、ハーバード大学を訪れ、ニューヨークではアスペン研究所を訪問後、専門家の前で食料問題に関するプレゼンテーションを行うといった内容です。どちらのプログラムも、生徒の多様性を深める充実したものとなっています。
また、今年度からニュージーランド、韓国の学校と姉妹校交流を行うので、短期の交換留学も可能となります。
多様性を深める全人教育
文武両道を貫く中で豊かな人間性を育む
生徒の多様性を深めるために、充実した海外研修が行われているということでしたが、普段の生活の中で多様性を深める工夫はありますか?
日比谷高校には、139年間変わらない校風があります。それは、学習とともに行事や部活動にも熱く取り組むという文武両道の姿勢です。現在、全校生徒の94.1%が部活に所属しています。各界で活躍する先輩方がたくさんいますが、全ては文武両道を貫く中で、平行して豊かな人間性を育んでいくという全人教育がベースとなっています。1年生の時から学習・生活・進路に対する意識をできるだけ高く持ってもらうために、担任は年4回、生徒と面談を行います。
また、日比谷高校では昔から、学年が上がってもクラスを文系・理系に分けることはしていません。選択科目の授業が行われる際に、それぞれ教室を移動して分かれるというだけです。文理に分けないことで、様々な知識や能力を持った生徒が1つのクラスに入り混じっており、それは生徒の多様性を深めることへ繋がります。
このような環境で精一杯努力してきた人達が、今の社会でも活躍しており、生徒達もこの姿勢を引き継いでいます。決して勉強だけの生活ではありません。
思考力を高め、将来のリーダーへ
2018年までに国際バカロレア認定校を200校まで増やすという政策がありますが、このような英語に特化する取り組みについてどう思いますか?
グローバル化が進む中で、英語教育の質を高め、さらに生徒の4技能習得率を高める上で優秀なプログラムは、いずれどの学校でも使われるといった方向になるかもしれません。しかし、まず母語である日本語において思考する授業がベースとなり、生徒の思考力を十分に高めていかない限りは、なかなか難しい話であるとも考えます。
将来のリーダーとして活躍するためには、まず十分な思考力を養う必要があります。生徒一人一人の多様性を深めることで、豊かな人間性を育み、それは世界へ大きく羽ばたく力へとなっていきます。