「生きることは何なのかを教えたい」 坪谷ニュウェル郁子氏が提供している世界水準教育 | バイリンガルへの道

「生きることは何なのかを教えたい」 坪谷ニュウェル郁子氏が提供している世界水準教育

「生きることは何なのかを教えたい」 坪谷ニュウェル郁子氏が提供している世界水準教育

今回は、教育再生実行アドバイザーとして活躍されている坪谷さんと、英語塾キャタル代表三石の対談内容をまとめました。

坪谷ニュウェル郁子氏。1985年にイングリッシュスタジオという塾を設立したのち、幼稚園、小学校、中学校と開校。現在は学校経営の他、国際バカロレアの親善大使、政府の教育再生実行アドバイザーなど多方面で活躍されている。

どの国に行っても継続できる学習プログラム ― 国際バカロレア教育

坪谷氏が1995年に設立し、現在も理事長を務める東京インターナショナルスクールには、56か国から360名の生徒が通っている(数字は収録当時)。
「生徒の95%が日本に3~4年滞在する駐在員の子どもです。本国の教育の途中でやって来て、また数年後に違う国へ出ていく。彼らのように国を転々とする子どもたちと保護者が求めているのは、世界中どの国に行っても継続できる学習プログラムで、本校は国際バカロレアの認定校となりました」

国際バカロレアは、文部科学省が教育再生の柱として推進目標を掲げているプログラムで、改革に取り組んでいる教育界で大きな注目を集めている。その大使も務めている坪谷氏に、内容を簡単に説明していただいた。
「1968年にジュネーブでできた教育プログラムで、当時ジュネーブには国際機関が集まっていたため、20人のクラスに12か国の子どもがいるような状況でした。彼らが大学進学時に必要な「世界共通の成績証明書」として国際バカロレアができました。そのミッションは、・多様性を受け入れる・世界平和に寄与する・生涯にわたって学び続ける、など、一国主義ではなく世界を基準にしたものです。
教師からの一方的な知識詰込型ではなく、生徒主体の自ら考える力を尊重するカリキュラムのため、日本の従来の教育とはかなり違いがあります。高校生にあたるDPで出されたテーマを例に挙げると、・数学は発明されたのか発見されたのか・歴史における事実とは何か・作者と作品の間にはどのような関係があるか、など自分なりの答えを探求する問いなのです。しかも学校はそれをプレゼンする場所ですから、生徒たちはリサーチしたりレポートを書いたりという作業を自宅で準備しなくてはならないので、とても大変ですよ。しかしこのDPで卒業資格を得ると、世界、日本の多くの大学に入学することができます」

*東京インターナショナルスクールHPより抜粋(http://tokyois-as.com/

学校の授業だけでは足りない ― 日常会話レベルの英語力まで

●必要なのは2400時間

日本人は中学高校と英語を勉強してきたのに、全然話せるようならない、と言われて久しいが、日本の英語教育についてはどうお考えだろうか。
「日本語と英語というのは言語学的にかなり離れているので、日本人が日常会話程度に英語を使えるようになるには2400時間が必要というデータがあります。中学高校の授業ではだいたい800時間ですから、完全に足りていないんですよね。英語教育を小学校まで早めても、また大学で取ったとしても1000時間です。残り1400時間足りないわけですから、800時間、1000時間なりの成果しか出なくて当然で、学校の授業だけで日常的に英語が話せるようになるなんて夢物語ですよね」
ではその足りない分をどうやって補っていけばいいのだろうか。
「逆算すると、いつ始めて何時間ずつやれば2400時間に到達するのかが出てきます。それを学校以外でやらなければ無理なんですよね。英語の本を読んだり、英語を聞く機会を増やしたり、工夫すれば自分でも学習できますが、塾などのエキストラな教育で補うとなると、ここで経済格差が起きてしまうんですよね。親がお金を出せる家庭は足りない時間数を埋められますが、そういう状況にいない生徒にはなかなか難しい。そこが大きな課題ですよね」

●4年でネイティブレベルへ

坪谷氏はインターナショナルスクールの他にアフタースクールも経営されており、普通の日本の学校に通っている生徒が学童のように利用している。そのカリキュラムを教えていただいた。
「生徒たちは放課後に毎日やってきます。ヨガや体操でウォーミングアップしたのち、輪になってディスカッションをしたり、プレゼンテーションをします。小学1年生から来ると4年生までに2000時間くらいになりますので、これは英語を母国語とする国の国語レベルとあまり差がないところまで到達できます。あとは同年代の英語が母国語の生徒たちと同じレベルで続けていきますので、絶対時間には早くに到達できますね」

*東京インターナショナルスクールHPより抜粋(http://tokyois-as.com/

日本の教育の現状 ― 課題は改善し、良い点は輸出しよう

●経済格差、外国人問題、先生の負担増

他に、日本の教育はどんな課題を抱えているとお考えなのだろうか。
「OECDの加盟国の中で、日本は教育に対する投資がきわめて低い国なんです。そのため私費負担による教育の割合が多い、つまり親の経済力によって教育格差が生まれているんですね。それが一番大きな問題だと思っています。
また、一クラスの人数が40人というのは中国に次いで2番目の多さです。統計から計算すると40人の生徒の中に、発達障害の生徒が2.5名いるんですね、相対的貧困の生徒が6.7名、勉強がわからないって言っている生徒が6名、勉強が簡単すぎてつまらないって言っている生徒が5名いるんですよ。そんなクラスを一人の先生で教えてるわけですよね。これはどんなスーパーマンでもできませんよ。
なおかつ最近は外国人の生徒も増えてきた。都内のある公立中学では、一クラス40人のうち半分が日本国籍以外の生徒で、中にはひらがなも読めない生徒もいる。これも先生は一人ですよ。さらに、外国人の子どもの中には、義務教育の過程の中で就学しているかどうかわからない生徒が16000名もいるんです、これが現状なんです。
それでいて日本の先生方っていうのは世界で一番の働き者と言われています。残業代は不払いで、長時間労働を強いられて、ブラックな職業なんですよ。それなのに、少子化ということで毎年、教育に対する予算が削られ続けている。少子化の問題は他の国でも同じですが、韓国では、少子化だからこそ教育の予算を増やしています。
さきほど言ったような生徒たちにも満足のいく教育を受けさせるためには、先生が足りない、教材が足りない、つまりお金が必要ですよね。教育にこそお金をかけるべきなんです。教育は未来への投資であり、子どもたちは国の財産である、そういう価値観を成人全員が持たなければならないと思います」
坪谷氏はすでに、自身のNPOで発達障害や学習障害の生徒たちのための小さい学校を設立しており、個別のケアが必要な生徒のために10年間で8500人の教員を、また外国人労働者の子どもの教育のために1500人の教員を増やすための活動を行っている。また、経済的な環境に恵まれない生徒も世界水準の教育を受けられるようにと財団を立ち上げ、基金を集めて進学の支援を行っている。

*東京インターナショナルスクールHPより抜粋(http://tokyois-as.com/

●日本教育の素晴らしいところ

「一方で、日本の教育には素晴らしいものもあります。例えばみんなでお掃除をするとか、給食当番もそうですし、保育園の時から洋服の畳み方を教わるとか、これらは日本にしかない教育です。日本の学校では、勉強の他にそういう面も教えてくれる。だから先の震災では暴動が起きなかったし、サッカーのワールドカップで日本のサポーターが、負けたにも関わらず客席を掃除して帰ったことが話題になりましたよね。私はこの素晴らしい日本の教育を、先進国の貧困地区に輸出したいと思っているんです。特に小学校でそれらを教えていくことによって、犯罪率も下がるでしょうし、いい傾向が生まれるのではないかと考えています」

最後に、もし時間や場所やお金の制限がないとしたらどんな授業をしたいか、夢の授業について伺った。

「1985年、お寺の中で寺子屋のような塾を始めた時、子どもたちに『生きることは何なのか』を教えたかったんです。あなたも、あなたも、一人一人が必ず、みんな輝くものを持って生まれてきたんだよ、と伝えたい。それを通じて社会を良くしていこうよ、幸せになろうよ、それがこの世に生まれてきた意味なんだよって。それが私の原点であり、今も変わりません」
強い理念と並外れた行動力で、古くなった日本の教育制度をバッタバッタと大掃除していく姿は、すべての子どもにとっての、働き者で愛情いっぱいのお母さんという印象を受けた。今日も子どもたちにより良い教育を提供するため、精力的に世界を飛び回っている。
この記事は、2017年4月21日、ラジオ”In the Dreaming Class”の内容です。ラジオ全音声を聞かれたい方は以下からどうぞ!