世界共通の大学入試資格 「国際バカロレア教育」が日本の学校教育を変える | バイリンガルへの道

世界共通の大学入試資格 「国際バカロレア教育」が日本の学校教育を変える

世界共通の大学入試資格 「国際バカロレア教育」が日本の学校教育を変える

国際バカロレア(以下IB)は、国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する、全世界に共通する国際的な教育プログラムで、1968年に設置され世界に広がったが、日本での認知度は低かった。 しかし、文部科学省が「2018年までに国際バカロレア認定校を200校程度まで増加させる」という目標を打ち出したことにより一気に注目され、当時16校しかなかった認定校が、現在は100校程度にまで増えている。
改革に取り組んでいる日本の教育界に、黒船のようにやってきたこのプログラムについて、IB教育推進の第一人者である玉川大学の江里口歡人(えりぐちかんど)教授にお話を伺った。

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「IBの使命」と「学習者像」に沿って進められる教育

文部科学省のHPには「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する」などの理念を掲げた「IBの使命」と、「探求する人、知識のある人、考える人」など10項目の「IBの学習者像」が掲載されている。
これについて江里口教授は「平和なより良い世界を作る、なんて日本の教育の目的とは違いますよね。日本は指導要領がしっかり決まっているので、生徒に学力をつけさせることが基本、だから知識中心になってしまう。IBでは知識は二次的なもので、いかに考えていくか、なんです。日本では、期待された答えを書かなければいけない。授業でやらなかった、自分勝手なことを書くと点数が付かないですけど、IBは自分の考えを出さないと逆に点数が付かないんです。
学習者像に「探求する人」というのがありますが、IBの生徒たちはトムソーヤみたいに、びっくりするようなことを言ってきます。もともと子どもっていうのは探求心のかたまりなんですけど、日本の教育ではそれをどんどん抑えてしまい、指示待ちの生徒を作ってしまっています。IBの生徒たちは、自分から調べていこう、探していこう、という気持ちが摘み取られていないため、どんどん興味を持って、自分で勉強していくんです」

年齢によって4つに分かれているIBプログラム

3歳~12歳が対象のプライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)、11歳~16歳が対象のミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)、そして16歳~19歳を対象としたディプロマ・プログラム(DP)では、大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得できるカリキュラムがある。もうひとつ、16~19歳が対象のキャリア関連プログラム(CP)もある。
今IBが注目されている一番の理由は、このうちDPで取得できる「国際バカロレア資格」にある。スコアにもよるが、ハーバードやオックスフォードなど名門校も含めた世界の多数の大学に入学できるため、最初は海外の大学に進学したい学生向けのイメージだったが、最近は国内でも江里口教授の玉川大学をはじめ、東大、京大、慶應、早稲田、上智、阪大など多くの大学で採用され、ここ数年では医学部さえも対象になるなど、その大学や学部は年々増加しており、センター試験に代わる新しい大学入試の選択肢として脚光を浴びている。

玉川学園HPより抜粋

玉川学園HPより抜粋(1)

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自分で考えていくうちに身につく知識

実際の授業について伺った。「小・中学校にあたるPYPやMYPだと、親御さんは自分の子どもが勉強していないように見えるかもしれません。日本の感覚だと、勉強とはドリルをしているとか、机に向かっているイメージですが、IBの場合、何かを調べたり、友だちとスカイプでコラボレーションしていることもあります。日本では、歴史なら弥生時代から始まって全部暗記しなくちゃいけないですよね。IBだと、例えば戦争というトピックについてやりましょうとなると、自分でいろいろ調べていくうちに、歴史も地理もそこで知識が入ってくる。暗記ではなくて自分で考えていくうちに知識が付いてくる、そこが大きな違いですね。
高校にあたるDPになると自分で科目を選択するので専門的になっていきますが、基本的なスタンスは同じです。鳴くよウグイス平安京、なんてみんな覚えましたけれども、IBの場合は794年が795年でも、8世紀後半でいいんです。そのかわりその背景はしっかり学習する。数学も最後の答えが間違っていても、そこまでのプロセスが正しければ、大きな減点にはなりません。でも、数学でグループディスカッションはします。なぜグラフができたのか、なぜ関数ができたのか、何に使うために?って。日本の教育ではすぐ計算とかテクニックに入ってしまいますが、なぜ関数を勉強しなきゃいけないのか?方程式を使って何ができるのか?それを教えてもらえないから、意味がないと思ってやらなくなっちゃう。そこを大切にするのがIBなんです」

 卒業生が言う「ワクワクする大変さ」

英語塾キャタルスタッフである笹原瑚都さんは、PYPからIB教育を受け、国際バカロレア資格で大学に入学したIB卒業生である。IBで大変だったことは何か尋ねてみた。
「作業の量がとても多いんです。レポートを書いたり、プレゼンをするために準備をするわけですが、自立心を求められるので、先生たちに聞いても、自分のやりたいようにやりなさい、と言われてしまう。リサーチも、自分で文献を探しに行くところから始めます。必ず自分のトピックで自分のプロジェクトを進めなければならないので、友だちと一緒、なんていうのはダメで、コピーがきかない。大変でしたがそのおかげで、大学に入ってからのエッセーやレポートはラクにできましたね」
江里口教授から他の卒業生の興味深い感想も教えていただいた。「卒業生に、IBは大変だった?と聞くと、はい大変でしたって。もう一回やれって言われたら?と聞くと、二度とやりたくないですって。じゃあ、将来自分のお子さんにIBやらせますか?って聞いたら、絶対やらせます!って。大変なんですが、楽しいのです。刺激的でワクワクする大変さです」

6科目を選択+3つの必修科目

次にプログラムの具体的な内容を教えていただいた。「DPでは、文系理系を問わず6つの科目を選択して2年間履修します。それに加え3つを必修として学びます。一つは課題論文(EE)、大学の卒論のようなものです。二つ目が知の理論(TOK)、これはIBで最も大切にされているものですが、論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション能力を養うためのいわば「正解のない問題」に取り組む課題です。そして3つ目が創造性・活動・奉仕(CAS)、これは学校の外へ出て、社会で何かを作り上げたり行動したり奉仕活動をしたり、ということです。DPの卒業試験で合格点を取れば国際バカロレア資格が取得できます」

玉川学園HPより抜粋(2)

玉川学園HPより抜粋(2)

IB入試を採用する大学が増加中 ― しかし課題もある

IB入試を採用する大学が世界には約4000校ある一方で、日本国内でIB教育が受けられる認定校は約100校。政府の挙げた目標のまだ半分といったところだが、ここにはどんな課題があるのだろうか。
「やはり教員養成が一番の問題です。日本人のIB教員の養成は始まったばかりで、いくつかの大学にコースがあるくらいです。数年前から一部の教科で日本語でのIBも認められるようになりましたが、まだ英語での授業が主流です。IBでは授業は生徒主導で行われますので、先生は問題提起をして、生徒たちがディスカッションをしている間は一歩下がって、最後にまとめるというモデレーターの役目です。一方的な知識詰込み型の日本の授業とは大きく異なるので、日本の教員をIBに変えていくのは大変です。今の段階では、IBを英語で教えられる海外の先生が来て実施しているのが主体ですが、今後は少しずつ日本人のIB教員も増えていくのではないでしょうか」
日本の受験制度が求めてきた「頭のいい人」と、IBが育てている「頭のいい人」には違いがあるようだが、IBで言う頭の良さはどんな人なのか、最後に江里口教授に伺った。「人生の優先順位を自分で決められるか、ですね。物事が起きたときに、それが本当なのか、いいのか悪いのかをしっかり判断できる人。使命にあるように、世界の平和のために、というのが大きいですね」
グローバルな教育を受け自主性を持ったIB生たちが、世界で活躍し新しい時代を作っていくことだろう。そしてIBが日本の教育改革にどんな影響を与えていくか、これからも目が離せない。