イェール生が教えてくれた、多様性の理解がライティングから始まる理由とは | バイリンガルへの道

イェール生が教えてくれた、多様性の理解がライティングから始まる理由とは

イェール生が教えてくれた、多様性の理解がライティングから始まる理由とは

前回インタビューを行ったYupei先生に続き、今回もRewritesで大活躍されているMichelle先生に、「多様性×ライティング」についてお話を伺いました。

Michelle先生は現在イェール大学4年生で、心理学を専攻しています。ニューヨークで幼少期を過ごしたことから、常に ”Diversity” (=多様性)と隣り合わせの生活だったそうです。そんな彼女は、イェールで何を学んだのでしょうか。そして多様化する国際社会において、どうして大学はライティングスキルを重視するのかご紹介します。

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世界中から人が集まる大都市、ニューヨークで生まれ育つ

どのような幼少期を 過ごされたのですか?

普段から様々な背景を持つ人々に囲まれ、多彩な環境で過ごしました。私はニューヨーク州で生まれましたが、両親はドミニカ共和国出身の移民です。日本ではあまり知られていないかもしれませんが、アメリカでは移民が人口の13%に上り、又、全体の4分の1が移民一世・二世と言われています。同じクラスには私の家族のようなヒスパニック(ラテン系アメリカ人)、アジア系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人、そして白人の子供達が入り混じり、それぞれが異なる歴史や文化を持っていました。例えばアフリカ系アメリカ人は人種差別の歴史を持ち、アジア系アメリカ人は遠くの地からより良い生活を求めて海を渡ってきた先祖がいて、ラテン系アメリカ人も仕事を探しにアメリカの土地にやって来たというルーツがあります。

このような異文化に溢れた環境は私にとってごく当たり前の日常生活の一部でした。クラスメートともお互いの文化や肌の色に対して特別な偏見を持たずに生活し、”color­blinded”な(=人種偏見がない)幼少期でした。そういった環境が、”Diversity” (=多様性)を強く意識したきっかけになったと思います。

Times Squareにて高校の友達と(左から2番目がMichelle)

Times Squareにて高校の友達と(左から2番目がMichelle)

異文化交流で学んだ多様性

異文化と関わり合う機会が、幼い頃から身近にあったのですね。”Diversity” (=多様性)は Michelle先生にどのような影響をもたらしたのでしょうか?

自分と異なる視点から学ぶことの大切さに気づかせてくれました。近年、Humans of New Yorkというフェイスブックページが全米で大人気ですが、このプロジェクトのように、路上で偶然話しかけた人々から学べることはたくさんあるはずです。道の途中で出会う一人一人が、私の想像もつかないような体験をしているのです。この人達のストーリーに耳を傾け、自分と異なる経験を経てきた彼らの考え方から学ぼうとする姿勢を保つことが重要だと思います。私も実際にそうすることで多面的に物事を捉えるられるようになりました。

Humans of New York とは:ニューヨークや世界各地を周る青年写真家が、路上で出会った一般の人々の写真とライフストーリーをシェアするフェイスブックのページ。2010年にBrandon Stantonが始めたプロジェクトで、彼の写真集はニューヨークタイムズ紙でブックランキング1位を獲得した。

日本人がグローバル社会に対応するために必要なこと

複雑化する現代社会において、多面的に物事を見る力はどんどん必要になってきていると思います。
一方で、日本のような単一民族国家では、多様な人種背景を持つ人と関わり合う機会は多くありません。どうすればグローバル社会に対応できるのでしょう?

「話・意見を聞くこと」です。すべての人が持っているストーリーに耳を傾けてください。自分の体験だけで構築された視野を、相手に無理やり押し付けることはできません。お互いの異なる経験から学ぼうとする意識を持ち、会話を続け、問題から逃げないことが必要です。
また、“Diverse environment”(=多様な環境)に入っていくことも大切です。このような環境は、私がイェール入学を決断した理由のひとつでもあります。キャンパス内にはカルチャーハウスという建物があり、アジア・アフリカ・中 東・ヨーロッパ・ラテンアメリカなどそれぞれのハウスが自分たちの文化を発信、そして分かち合う場となっています。ハウスでは伝統文化を紹介する講演会や勉強会など、何かしら毎週催されています。これらのイベントを通じて、人種問題について理解を深めたり、文化に対する偏見をなくすことができるのではないでしょうか。

この場所では誰もが属するコミュニティーを必ず見つけることができると思います。そういう意味でイェールはただ学ぶ場所以上に、私にとってホームだとも言えますね。授業・課外体験・留学を通じて、たくさんのかけがえのない出会いがありました。アイビーリーグの一校ですので世界中から志の高い生徒たちが集まり、彼らと授業を受けることでモチベーションも自然と上がりました。卒業後も、一生大切にしたい人達です。

ラテンダンスチームのグループ写真です。一番左、前から2列に立っています。

ラテンダンスチームのグループ写真です。一番左、前から2列に立っています。

ここまで、ニューヨークで過ごした幼少期、そして多様性との関わり方についてお話をお伺いしました。つぎは、イェール大学入学後の多様性との関係について、お聞きしたいと思います。

Harvard vs. Yaleのフットボール戦にて。毎年The Gameは学校行事として大変な盛り上がりをみせています。イェールはここ数年負け続けのようですが、、

Harvard vs. Yaleのフットボール戦にて。毎年The Gameは学校行事として大変な盛り上がりをみせています。イェールはここ数年負け続けのようですが、、

イェール大学で印象に残っている授業

Michelle先生がイェールに入学を決断した理由のひとつは、多様な文化に触れることが出来る環境、だったそうです。学校が生徒達を、とても大事にしてくれているのですね。特にイェールでは学生の約9割がキャンパス内の寮に住んでいるせいか、アットホームな雰囲気に包まれている気がします。そんな環境の中、今までで一番良かった授業はどれでしょうか。

授業の選択肢が多いので決めるのは難しいですね。一番最近の授業だと、今年の秋学期に受けたAfrican American Studiesという授業にはとても満足しました。この授業はアフリカ系アメリカ人初のイェール学部長、Jonathan Holloway教授(*1)が教えています。高校の授業ではあまり取り扱われることがなかった、アフリカ系アメリカ人作者の著書やエッセイを読み、奴隷解放宣言から現在に至るまでに彼らがどのような人生を過ごしてきたのか、差別が激しかった頃に比べ現代のアメリカ社会では何が変わったのか、そして未だに乗り越えられていない壁について学びました。
この授業を受けていた時期に、ちょうど”March of Resilience”(*2) という生徒主催の大規模な反発デモが起こりました。ある教授の発言が、生徒達に「マイノリティーに対して差別的」と捉えられてしまったことが原因でした。このデモはキャンパス内で人種少数派の生徒達が受けてきた侮辱や偏見の実態を、学校全体で話し合うきっかけとなりました。私が入っているアフリカ系アメリカ人主体のアカペラグループもパフォーマンスを行い、”Voice of Color”(=有色人種の声)を学校中に届けました。これらの経験を経て、深刻化する社会問題としっかり向き合おうと改めて考えるようになりました。

March of Resilienceでパフォーマンスを行った時の写真。右から2番目、赤と白のストライプの服を着ています。

March of Resilienceでパフォーマンスを行った時の写真。右から2番目、赤と白のストライプの服を着ています。

(*1)Jonathan Holloway教授:イェール大学初のアフリカ系アメリカ人として、学部長(Dean of Yale College)を2014年度より務める。主にAfrican American Studies, History, そしてAmerican Studiesに関連する授業を教えている。
(*2)March of Resilienceとは(Yale Daily News参照):昨年度秋学期にキャンパス内で行われた、イェール学生主体のデモ活動。マイノリティーに対する差別や偏見をなくそうという思いが多くの生徒を結団させ、ニュースにも取り上げられた。なぜこのようなデモが起きるのか。有色人種、特にアフリカ系アメリカ人は歴史的背景からアメリカ社会では常に差別・偏見を受けていた。このデモでMichelle先生は、「まだまだ道は険しいけど、みんな一緒ならば必ず乗り越えられる。この場から生まれたパワーを糧に、進み続けよう。」、というメッセージを歌でキャンパス中に届けた。デモ活動は、The New York TimesThe Washington Postなどの記事にも取り上げられた。

充実している海外留学プログラム

私もデモに参加しました。初めての体験で、生徒達のパワーに圧倒されました。留学生の私も肩を組んで、仲間として受け入れてくれるイェールの暖かさを感じました。移民の国とも言われるアメリカですが、実際に生活していると人種が入り混じっているようで、未だに人種や互いの文化の間には見えない壁があるのですね。
学内の異文化交流活動以外に、海外留学プログラムが充実しているそうですね。Michelle先生も留学されたのですか?

留学中、アルゼンチンのサッカー場にて

留学中、アルゼンチンのサッカー場にて

学校側が全ての学生に最低ひと夏、海外の学校で学んだり、研究したり、インターンシップやボランティア活動に参加することを勧めています。私も大学2年次の夏に、アルゼンチンで公共衛生学の研究を行いました。学内プログラムではなかったのですが、学校が研究資金を出してくれました。他にも資金援助制度や、様々な種類のフェローシップ(奨学金プログラム)に出願する機会が用意されています。私が応募したフェローシップは、一時期のプログラムに対して上限120万円まで出してくれました。既に学校から資金援助を受けている生徒 (ちなみにイェールでは二人に一人が資金援助を受けています)には、自動的に学校から留学資金が支払われます。学校が全面的に資金面や研究内容の援助をしてくれるので、私のようにあまり裕福ではない家庭出身の生徒にも、海外で学ぶ機会が与えられます。

120万円はすごいですね!確かに夏が近づくにつれて、フェローシップや留学プログラムのながーいリストがたくさん送られてきます。誰もがこのような制度を受けられる環境は、長い歴史を持ち、資源豊富なイェールだからこそ実現可能なのでしょうね。

そうだと思います。留学プログラム以外にも、アイビリーグの一校として名が知れているため数々の著名人がキャンパスに訪れます。卒業生の学者やビジネス・政治界の重鎮、俳優に料理人、音楽家、映画監督、ジャーナリストなど、様々な分野で功績を挙げているゲストスピーカーのストーリーから学ぶことが出来ます。他では聞くことが出来ない、とても貴重な話を世界的に有名な方々から聞くことができるのは、イェールならではの特権ではないでしょうか。例えば以前、ドミニカ共和国の前大統領がキャンパスに訪れたことがありました。先月は 先程お話したHumans of New Yorkの写真家、Brandon Stantonが講演会を行い、一時期仕事を失い、資金ゼロのままニューヨークに引っ越した話や、昨年ホワイトハウスでオバマ大統領にインタビューを行った話をシェアしてくれました。このような素晴らしい機会を与えてくれるイェールという環境に、心から感謝しています。

更に凄いのは、そういう方々が授業を教えているということですよね。メキシコ人の友達は、前期からメキシコ前大統領のレクチャーを受けています。先日クラスディナーで一緒にお酒を飲んだと、興奮気味に教えてくれました。
卒業まであと2ヶ月弱ですが、今後はどのような道を進むのでしょうか

私自身低所得世帯に育ち、両親もあまり教育熱心ではなかったことから、教育改革に興味があります。そこで卒業後はまずYale-­NUS(*3)のDean’s fellowとして、一年間シンガポールで勤務することが決まりました。Teach For America(*4)派遣プログラムにも合格していたので、迷っていたのですが、イェールとは卒業後も深く関わっていきたいと思い、Yale­-NUSを選びました。キャンパスでは主にアドミッションオフィスで勤務することになると思います。アジアでもまだ数少ないリベラルアーツ制度の大学により多くのアジア人学生がリーチアウトできるよう、取り組んでいきたいです。
(*3)Yale­-NUS Collegeとは:イェール大学とシンガポール国立大学(National University of Singapore)が2011年に協定を結び立ち上げた、4年制私立大学。在学生は1年次と3年次に1学期ずつ、イェール大学で学ぶ機会が与えられる。
(*4) Teach For Americaとは:大学卒業生を貧困世帯地域の公立校に派遣するプログラムを運営する、非営利団体。選考に受かった学生は数ヶ月に及ぶ研修後、二年間教師を勤める。プリンストン大学の卒業生、Wendy Coppが1991年に設立。2010年の全米文系学生・就職先人気ランキングでは、GoogleやAppleを抑えて1位に選ばれた。

Michelle先生の卒業間近にして起きたデモは、アメリカ人の間にまだ差別の意識が残っていること、そして差別問題がアメリカに根付いてしまっていることを明らかにしました。国内の課題と海外での学びを経験し、教育という分野に改めて深く取り組みたいと語ってくれたMichelle先生。最後に、彼女にとって、ライティングとはどのような意味を持つのか、そして多様性の理解にどうしてライティングは必要なのかお聞きしました。

ダンスパーティーにて友達と。右から2番目、水色のドレスを着ています。

ダンスパーティーにて友達と。右から2番目、水色のドレスを着ています。

ライティングは自分なりの意見を発信することが大切

最後に、ライティングについてお話を伺います。イェールのようなアメリカの大学では受験次に必ずエッセイを提出させますが、これはなぜでしょう?学校はライティングを通じて、生徒の何を見ているのでしょうか。

学生達の自分なりの意見、”voice”を探しているのだと思います。受験の際に提出する場合は、例えば今までの人生体験や、何かが変わった瞬間について、そこから自分がどういう学びの過程を経て何を学んだのかをはっきりと述べることが求められます。この与えられた自由のなかで、自分の声をしっかりと発信、そしてどのように展開させられるかが鍵になると思います。書くことの内容よりも、受験者のライティングがどれだけ自分について表現できているか、を学校側は見ていると思います。
頻繁に見るお題では、”Tell us about a difficulty that you overcame and how you overcame it?”(あなたが乗り越えた困難について教えて下さい。又、どのようにその困難を解決しましたか。)というものがあります。この場合、何が「困難」だったのかは問題ではなく、”How”=どのように乗り越えたのか、そしてこのプロセスから何を学んだのか、結果的にどのようにあなたの成長に繋がったのか、まで踏み込むことが大切です。

人生体験をただ振り返るだけではなく、そのストーリーから自分の声を引き出すということですね。先ほど述べられたようにまわりの意見をよく聞き、自分の考えと比較することでより深みのあるエッセイを書けそうですね。Michelle先生はどのようにライティングの練習を行ったのですか?

リーディングとライティングの両方に力を入れました。とにかくたくさんの本を読むことが、ライティングのスキルアップに繋がります。様々なジャーナルやエッセイを読むことで、読み手を引きつける良いライティングとは何か、学びました。又、リーディングは単語や表現の仕方を増やす為に最適です。このように蓄えた単語・表現の幅、そして知識をアウトプットする為にはたくさん書くことが重要です。ただ書き続けるのではなく、必ず第三者に読んでもらい、フィードバックを受け、そしてそのコメントをもとに書き直すというサイクルを繰り返すことです。

なるほど、まさにリライツのサイクルですね!ライティングスキルを強化することは、人としてどのような成長につながるのでしょう?

私にとって、ライティングは考えている内容や、相手に伝えたいメッセージを自分のなかで整理、そしてまわりに発信する為のツールです。自分のイメージを文字で表現することで、読み手により分かりやすく、私の声を伝えることが出来ます。意見をまわりの人に発するという意味で、ライティングは異文化理解や、お互いの体験を分かち合う為のツールでもあります。そして人と人の関係だけでなく、自分が世界とどう向き合うか学ぶきっかけでもありま す。誰かがあなたのエッセイを読み、あなたの意思に耳を傾けることが、多様性を認知する為の第一歩につながると思います。

Michelle先生がおっしゃるように、ライティングは私たちに異なる考えを具現化する力を与えてくれます。だからこそイェールに限らず、リベラルアーツ式のアメリカの大学では、意見交換に必須のライティングが重要視されているのではないでしょうか。お互いの体験や視点から 学ぶ為のツールこそライティングなのだと、お話を聞いて改めて思いました。 Michelle先生、今回は貴重なお話をありがとうございました。